“メノポハンド”とはなんですか?
更年期の女性でおこる手の変形とその周辺症状のことを指します。
「メノポーズ」とは「閉経」のことなんですが、女性が閉経を迎えてからの10年は体が変化する期間と言われていて、その時に手の変形なんかも出るといわれています。たとえば50歳で閉経したとしたら、60歳から65歳くらいまでは、そういう手の症状っていうのが突然出てくることがあります。閉経以外でも、子宮筋腫などで卵巣を取った人はもっと早く出ます。この閉経後におこる手の変形をメノポーザルハンドと言います。日本では日本手外科学会がみなさんに覚えていただけるよう「メノポハンド」という新しい名称をつけ予防や治療について啓蒙活動を行っています。
どんな症状が起こりますか?
初期症状はこわばりと痛みで、リウマチと勘違いされることがあります。
その後、へバーデン結節と呼ばれる第一関節の変形が起こることが多いのですが、大きく2つのタイプがあります。1つはもう完全に歪んでて、指先は動かないけど、痛みがあって手が使いにくいと言う人。もう1つは、指の関節がグラグラして、物が掴みにくくなる人で、エローシブタイプと言いますが、その関節自身が、少し壊れて、関節がグラグラして、物をつまむ時に、指が動いて、横に曲がってしまうんですね。それで、強い痛みの出る人がいます。この指の先端のところ(第一関節)の変形がほとんどですけど、第二関節に変形が出てくる人もいます。
どんな治療法がありますか?
痛みの出ている人に対して、まずは保存的治療、いわゆる対症療法を行います。内容としては内服薬・湿布・軟膏類と、装具による関節の固定を行います。
薬は痛みに対して使用し、いわゆるNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)と言われる一般的な鎮痛薬だけじゃ効かないことが多いので、オピオイドと呼ばれる、麻薬にちょっと近いようなものを使うことがあります。もちろん体に害はほとんどないようなものを選んで使ってます。あとは、抗うつ剤ですね、鬱とかの薬が痛みに効くっていうのが最近わかってきて、デュロキセチンと言いますけど、それらを使って、痛みを消すということをしてます。
しかし、手を使う方の治療って難しくて。例えば、水仕事をすると、装具をはめてもらえないんです。なので、以前はプラスチックの装具を作ってましたけど、最近は指輪型の装具を使ってます。インターネットでも取り寄せができるようになったので。ただ、最初のうちは柔らかいテープを使ったテーピングの方が、付け心地が良いので、そっちの方がいいかも知れません。そういう保存的療法を受けて、治らない人は手術をすることもあります。
どんな手術がありますか?
第一関節の変形で痛みの出る人に関しては、先程の関節が歪んで動かない場合も、関節がグラグラで横に曲がってしまう場合も、どちらも関節固定になります。形成術と言って、骨棘を削る手術もありますが、やっぱり何年かすると手を使っているうちに再発することが多いです。
また当院では、第二関節の変形に対して、リウマチに使う人工の関節を入れることがあります。結構、術後の経過は良くて、痛みも取れるし、動きも手術する前以上によくなることが多いです。
他に、指の爪の付け根に「ミューカシスト(粘液嚢腫)」と呼ばれるイボみたいなものが出来てくることがあるんですが、それができると、その粘液嚢腫自身が破れて関節の中に感染を起こすことがあるため、手術で切除することがあります。また、爪がへこんだり変形すると、女性は気にされる方が多くて、テーピングしても治らなければ、手術することがあります。
痛み止めは飲み続けないといけないのでしょうか?
最初の、変形してきている初期の頃がとんでもなく痛みがあるのですが、4〜5年すると、痛みはだんだん消えていくようです。初期の痛みは薬で押さえることになりますが、閉経がある程度落ち着いて、変形しきってしまうと、症状が楽になっていきます。
リウマチや他の関節症のように明確な治療法がないので、忙しい病院さんだったりすると、積極的に治療をしないというか、「そんなん年のせい」と言われて終わっちゃう。適切な痛み止めを出してもらえてなかったりします。当院にきて慢性疼痛用の痛み止めを出してやっと痛みが改善したという方もいらっしゃいます。
変形を予防するためにできることはありますか?
予防法としては、基本的には指先のマッサージをしたり、エクオールっていうサプリメントとか、豆乳を飲むといいと言っている医師もいますね。これらに含まれるイソフラボンという成分がエストロゲン(女性ホルモン)に形が似ていて、閉経後に女性ホルモン不足となっている体のさまざまな不調を和らげてくれると言われています。あくまで健康食品ですが、手の変形に対しても、初期の人には効くかもしれません。
最後に、読者へ一言メッセージをお願いします。
手指の変形や疼痛で悩んでいる方、是非一度当院手外科外来を受診してください。最新の知見や治療法などを取り入れていますので、お役に立てることと思います。
インタビュー医師紹介
1989年に三重大学医学部を卒業、三重大学附属病院整形外科に入局。その後、市立伊勢総合病院でも研修を受けたのち、1992年より三重大学で手外科、マイクロサージャリー(手術用の顕微鏡を用いて行う微細な外科手術)技術を学ぶ。
2000年より当院勤務となり、憧れであった手外科でご高明な藤澤名誉院長に直接指導を受け、手外科専門医を習得。四肢切断指再接着センターを開設し、三重県内の手外科領域の重度外傷の治療に注力。外傷の受け入れは引き続き行いつつ、最近では若い手外科を志す医師の育成に力を入れており、また、高齢者・リウマチ患者の手の障害治療など広く診察を行っている。
主な治療疾患
手根管症候群、肘部管症候群、ばね指、CM関節症、ブシャール結節、へバーデン結節、屈筋腱断裂、伸筋腱断裂、変形性手関節症、靭帯損傷・断裂、上肢の骨折(橈骨遠位端骨折など)、手指切断、重度外傷、手の先天性疾患(合指症、多指症など)、野球肘、テニス肘、ゴルフ肘、肩腱板損傷、反復性肩関節脱臼
※文中に記載の組織名・所属・内容等は、2024年4月時点のものです。